2019 年 2 月 8 日
ぼくの知るかぎり,みんなのこどもちゃんについて書かれた記事でもっとも長いものは,スオミ語(フィンランド語)で書かれたこの記事です:
http://jame-world.com/fi/articles-130636-kohti-seinatonta-maailmaa-ahdistuneiden-lasten-tarina.html
記事を書いた Adolfina さんは,日本に来たことがなく,みんなのこどもちゃんをライヴで見たことがないそうです。それでも,この記事は,みんなのこどもちゃんの本質をとらえています。アルバム『壁のない世界』をきいたうえで,ほのか,しなもん,K-TAI,nim,曽我智光,heaven の 6 人の名前が並記されている点に注目して,みんなのこどもちゃんが 6 人のグループであることを指摘したのは,世界で Adolfina さんが初めてでした。それ言われたの初めてと,ほのかさん自身が言ってました(公式サイトなどで,ほのかとしなもんの二人のことを言う必要がある場合,二人は「みんなのこどもちゃん」でなく「ほのしな」と呼ばれています)。
2018 年の暮れ,みんなのこどもちゃんは,Your Homicidols Best of 2018 でふたつの部門にノミネートされました。
ところが,Idol of the Year にノミネートされなかったので,Adolfina さんは,Homicidol Maniac さんに,こう言いました(「奥貝流行」というのが,Adolfina さんのアカウント名です):
Idol of the year, Minna no Kodomo-chan can't be voted. #死ねばいい https://t.co/5qrs5bClSK
— 奧貝流形 (@auhby) December 12, 2018
フィンランドのひとが,アメリカのひとを日本語でののしっているのを,ぼくは初めて見ました(「死ねばいい」は,みんなのこどもちゃんの曲名です)。
ぼくは,仕事で,または,だれかに頼まれて,翻訳をすることがあります。「そんなの,人間がやんなくても機械翻訳でだいたい読めちゃうじゃん」とよく言われます。それで生計を立ててるわけじゃありません。「だいたい」で構わない翻訳は,機械にさせときゃいいんです。翻訳サーヴィスの会社に属しているわけでなく,翻訳もやりますよと名刺に刷ってるくらいで,自分の興味関心がある分野で依頼が来ることはめったにありません。村上春樹が『1973 年のピンボール』で書いてるとおり,ほとんどの場合,依頼主がなんでこんな翻訳を注文したのか,さっぱり意図が分かりません。友人,知人に頼まれるときは,紙きれ一枚くらいの日本語を渡されて,これ訳して,と言われることが多いんですが,たいてい無理です。たとえば学術論文のように,主語,述語が明確に示されていて,専門用語の訳しかたが決まっている文章であれば,たとえぼくが詳しくない分野の文章であっても,調べれば訳しかたが分かります。けれど,紙きれ一枚くらいの日本語は,たいてい,なにを言ってるか分かりません。真意を忖度しつつ,想像して訳すこともありますし,一文ずつ,細かい意味を確認することもあります。問いつめると,人間関係が悪くなりがちです。
2018 年,みんなのこどもちゃんがアルバム『壁のない世界』を発売するのに前後して,英語の紹介文を見かけるようになりました。その英文は,とくにどこかが間違ってるわけではありませんでしたが,みんなのこどもちゃんの歌を聞いたことのないひとが,察して,忖度して訳したんだろうなと,ぼくは思いました。こどもちゃんの歌を聞いたことがなければ,まさかほんとにそんなこと歌ってると想像できないのはしかたありません。で,こんなふうに訳しなおしてみました:
The World Without Walls
The children are suffering with the world where there are no walls to secure them from collisions of minds. Still, they are obliged to be alive. Listen to their cries of the hearts. To the world.
アルバムのジャケットに記されてる英文と,なにがどう違うか分かんないでしょ。なので,翻訳というものはだれにもありがたがられません。
ある日ぼくは,みんなのこどもちゃんのプロデューサーに「『cancer』訳せる?」ときかれました。
「無理です」
即答しました。ああいう多義的な歌詞は,訳しかたが何通りもあって,作者の意図どおりに訳そうとすると,作者を問いつめなければなりません。そんなのにつきあって自作の意味をいくらでも喋ってくれるひとを,ぼくは,歌人の枡野浩一さん以外に見たことがありません。
「あれは,月,私,太陽,地球,神の視点が混じってんですよ」
???
?????
???????なんて言いました?
「cancer」は,順に,月,私,太陽,地球(世界),神の視点で歌われてるんだそうです。同じこと言ってるだけです。
そもそも「cancer」は,「癌(がん)」という意味です。大文字で始まる Cancer は星占いで言う「かに座」なので,音楽ナ夕り─が誤って「カニ」と紹介しました。ライターが,察して,忖度したんだろうと思います。このシングルには,わざわざ,
「全てが滅びよ」とあの子が言った。
ロマン優光
と大書された帯が付いていて,ブックレットを開くと,ロマン優光さんによるライナーノートが封入されてます。しかし,みんなのこどもちゃんの歌を聞いたことがなければ,まさかほんとにそんなこと歌ってると想像できないのはしかたありません。「癌」は,人類の隠喩です。
つまり,この歌は,こうなってるんだそうです:
| ねぇ わたしだけ もぅ みないで ねぇ まぶしい あぁ おわろう |
月 |
| 死にたがりのわたし こころ 感情 孤独だったいままでずっと 頭のなか こころはもうぐちゃぐちゃ もういいや またね |
私 |
| あぁ いつまでも 続くせかいのなか みんなで手をとり 笑顔に包まれて生きてく こころ満ちていく あぁ いつまでも 続くせかいのなか すこしの犠牲なら 仕方ないよね 人がすべただ しあわせのため |
太陽 |
| 廻る回るめぐるめぐる 時は狭間この世の片隅 ひとと人がもがきあがき おもいあがりここで朽ち果てる 穴の中に 崩れ落ちて 黒く塗られ 思い知るがいいのさ |
地球(世界) |
| 楽しいつみきらんらんらん 崩れ落ちてすべておわる おわる ひきつる笑顔らんらんらん だれがここを求めてるの 馬鹿じゃない |
神 |
| だめだ だめだ なんにも残さず消え失せろ やだ やだ やだ 殺して 殺され 見て見ぬフリかよ 世界を |
|
「わかりました,やってみます」
と言うしかありませんでした。ほかのひとの英語力を疑うつもりはありませんが,もしほかのひとが察して,忖度したら,たいへんそうなので。
そっか,この歌,人類を敵に回してんじゃん。そりゃ,ウォー・ペイントくらいするわ。。

一度訳して,分からないところがあったので,「おうち」に行って何点か作者に質問しました。
「神が出てくるのは,人類にたいする警告なんですか? それとも,神から見て,ひとごとなんですか?」
「ひとごと」
パンダの好きなあの子が笑って即答しました。
母語話者による点検は,Roger Goodman さんにお願いしました。3776 ファンのみなさん,SAKA-SAMA ファンのみなさんは想像できないだろうと思いますが,じつはロジャーさん,英語がペラペラです。ありがとうございました。
作者の意図がどうであれ,歌詞の解釈は自由だとぼくは思っています。ま,でもね,なんでウォー・ペイントしてるかくらい,伝わったほうがいいと思います。
cancer
Lyrics by Honoka
Music by jin tanakaDon't look at me,
Not just me.
It's so bright.
Let's end it.Occupied with thoughts I'd rather be dead,
I've always been lonely.
My mind is always messed up.
Whatever, see you later.In a world that goes on forever,
People take each other's hands,
Leading their lives wrapped in smiles.
That will satisfy them.
In a world that goes on forever,
Little sacrifices can't be helped.
It's all so they can be happy.Going round and round,
Time is an interval, the world a corner.
You people struggle, beat, boast and fall to ruin here.
You'll collapse in a hole, painted black, and then you'll realize.Delightful building blocks, ooh-la-la.
They fall to pieces in the end.
Strained smiles, ooh-la-la
Who would want to be here, dummy?No, no.
They'll be eliminated without a trace.
No, no, no.
Will they kill and be killed, willfully unaware
Of the world?
(つづく)
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